農薬の危険性について
有機リン酸系および有機塩素系農薬の健康被害について医学論文が報告されるようになりました。とくにパーキンソン病、多動症(ADHD)、喘息については詳細な論文が報告されています。
農薬や化学肥料を産生している多国籍企業は、医薬品など石油産業と表裏一体です。そのような支配力の強い団体がみずからの汚点をさらけ出すには訳があります。
これは現在、アグリビジネス多国籍企業であるモンサント社が主力農薬ランドアップ(グリホサート含有)の特許が切れたことや薬剤開発が難しいこともあって、農薬開発をやめ、いまでは耐性作物の開発のみを行っていることが大きな要因として挙げられます。
一定の期間が過ぎれば国家間の秘密文書がリークされるのと同じ構造で、必要のなくなったものは次の利益のために再利用されるパターンです。それでパンドラの箱が一部開いたのですね。
多国籍企業のアグリビジネスに支配されないためにも、自然栽培の考え方を生かし、日本の農業をそして日本の食の安全を死守したいものです。
(論文紹介)
農薬曝露で小児のADHDリスク上昇、最大で1.93倍に
小児が有機リン酸系農薬に曝露することで、注意欠陥多動性障害(ADHD)リスクが上昇することを、米ハーバード公衆衛生大学院およびカナダ・モ ントリオール大学が発表しました(Pediatrics 5月17日オンライン版)。米国で通常に摂取されているような濃度でも、ADHDリスクが最大で1.93倍になったといいます。
2000〜04年の米国民保健栄養調査(NHANES)データから8〜15歳の小児1,139人を抽出。有機リン酸系農 薬の代謝物であるジアルキルリン酸(6種類)の尿中濃度とADHDの関連を調査しました。対象者の親に電話インタビューしたところ、119例がADHD診断基 準を満たしており、29例がADHD診断基準を満たしていないものの、過去1年間で定期的にADHD治療薬を服用していました。
尿検査を行ったところ、93.8%の小児から1つ以上のジアルキルリン酸を検出。ジアルキルリン酸濃度の上昇は全体的にADHDリスクを高めました。なかでもジメチルアルキルリン酸の濃度が10倍増加するごとにADHDリスクが1.55倍(95%CI 1.14〜2.10)上昇することがわかりました。さらに、最も多く認められたジメチルチオリン酸の濃度が中央値より高い小児のADHDリスクは、同物質が検出されなかった小児に比べて1.93倍(95%CI 1.23〜3.02)高いことが明らかになりました。
農薬曝露でパーキンソン病の発病リスクが2倍に
農薬(殺虫剤・防かび剤、除草剤)への職業曝露によりパーキンソン病(PD)発症リスクが約2倍になることが示唆されたことが発表されましたAnnals of Neurology(2009; オンライン版)。こうしたリスクは曝露年数が長いほど増大し、男性では殺虫剤、特に有機塩素系殺虫剤(昔あったDDTと同じものです)と強い関連が認められました。
PDはアルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患です。ほとんどの場合、発症には遺伝的因子と環境因子が複合的に関与しています。
環境因子に関しては、これまでの疫学研究によりPD発症と殺虫剤の職業曝露との関連が示されていていました。しかし、原因となる殺虫剤の種類と曝露量による用量効果の関係は研究されていませんでした。
今回の研究では、フランスの農業相互保険会社(MSA)の協力を得て、同社の保険加入者からPD患者224例と年齢、性、居住県が一致する健康人 (対照群)557例を抽出して比較しました。
MSAの医療担当者が面接を行い、耕地面積、栽培農産物の種類、使用農薬の種類、曝露年数と頻度、散布方法などを含めた農薬曝露に関する詳細で膨 大な情報を収集しました。
その結果、PD患者群では対照群と比べ農薬曝露頻度が高く、曝露期間も長いことがわかった。推算による農薬曝露者のPD発症リスクは、非曝露者の約2倍でした。
男性のみを対象に、おもな農薬の種類ごとに解析した結果、特に有機塩素系殺虫剤への曝露によるPD発症リスクが高く、非曝露者の2.4倍となりました。リンデンやDDTなどの有機塩素系殺虫剤は、フランスで1950〜90年代に広く使用されており、使用後も長期にわたり環境中に残留することが知られています。
今回の知見は農薬への高度の職業曝露の影響に加えて、低量曝露の影響に関しても問題提起するもので、これを解明するには追加研究が必要であるとしています。
農薬がアレルギー性喘息の原因に
米国立衛生研究所(NIH)米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)は、農場で働く女性2万5,814人を調査し、農家の女性にとって、農薬はアレルギー性喘息の原因となることを発表しました(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(2008; 177: 11-18)。
農薬を使用または調合した農家の女性は、アレルギー性喘息の有病率が平均50%増加しました。特に有機リン系とカルバ メート系農薬は、気道過敏性の亢進と喘息の原因になると見られます。
アレルギー性喘息に関しては、分析した農薬31種類中10種類はアレルギー性喘息と有意に関連していた。このうち、除草剤が2種類、殺虫剤が7種類、殺菌剤が1種類でした。
具体的には、2,4-D(OR 1.53,95%CI 1.12〜1.83)、グリホサート剤(OR 1.31,95%CI 1.02〜1.67)、カルバリル(OR 1.41,95%CI 1.10〜1.80)、クマホス(OR 2.19,95%CI 1.02〜4.69)、DDT(OR 1.79,95%CI 1.06〜3.03)、マラチオン(OR 1.60,95%CI 1.22〜2.10)、パラチオン(OR 2.88,95%CI 1.34〜6.20)、動物用ペルメトリン(OR 1.71,95%CI 1.01〜2.91)、ホーレイト(OR 2.04,95%CI 1.07〜3.88)、メタラキシル(OR 2.61,95%CI 1.35〜5.04)。
アレルギー性喘息と最も強い関連が見られたのは、パラチオン、クマホス、ホーレイトなどの一部の有機リン酸系農薬でした。米国の農家で最も一般的に用いられている農薬は、マラチオンとカルバリルでした。非アレルギー性喘息と有意な関連が見られたのは、穀物用のペルメトリンのみでした。
■本情報・記事の著作権は全てエンテオス株式会社に帰属します。許可なく複製及び転載などすることを固く禁じます。無断複製、転載及び配信は損害賠償、著作権法の罰則の対象となります。